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岡山地方裁判所 平成5年(行ウ)8号 判決

岡山市宿毛一三三〇番地の一

原告

瀧岡太

右訴訟代理人弁護士

山崎博幸

岡山市天神町三番二三号

被告

岡山東税務署長 入江英彦

右指定代理人

榎戸道也

徳岡徹弥

大本哲

鈴木朗

岩谷健治

米森英次

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告の原告に対する平成五年一月二八日付け酒類販売業免許申請拒否処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成四年一二月一日、被告に対し、酒類販売業(小売販売業、以下「酒販業」という。)の免許の申請(以下「本件申請」という。)をした。

2  被告は、平成五年一月二八日、本件処分をした。

よって、原告は、被告に対し、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

認める。

三  抗弁

1(一)  酒販業をしようとする者は、その販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならない(酒税法〔以下「法」という。〕法九条一項)。

税務署長は、「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要がある」ため酒類の製造免許又は酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合は、免許を与えないことができる(法一〇条一一号)。

(二)  「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要がある」とは、新たに酒類の製造免許又は販売業免許を与えたときは、地域的又は全国的に酒類の需給の均衡を破り、その生産及び販売の面に混乱を来し、製造者又は販売業者の経営の基礎を危くし、ひいては酒税の保全に悪影響を及ぼすと認められる場合をいう(昭和五三年六月一七日付け間酒一-二五国税庁長官通達〔以下「基本通達」という。〕一〇条の6)。

(三)  税務署長は、〈1〉酒類小売業免許(消費者又は料飲店営業者〔酒場、料理店その他酒類を専ら自己の営業上において飲用に供する営業を行う者をいう。〕に対し酒類を継続的に販売することを認められる酒類販売営業免許)に対する免許の取扱に関し、酒類の販売場数と酒類の消費数量の地域的需給調整を行うために、原則として、各税務署管轄区域内の各市区町村を一単位として、「小売販売地域」を設定(平成元年六月一〇日付け間酒三-二九五国税庁長官通達「酒類販売業免許等の取扱について」別冊「酒類販売業免許等取扱要領」、改正平成三年六月七日付間酒三-四一〔以下「新要領」という。〕第2章第1の2。右小売販売地域は、「A地域」〔東京都の特別区、人口三〇万人以上の市、若しくはこれらに準ずる市町村〕、「B地域」〔A地域以外の市、若しくはこれに準ずる町村〕及び「C地域」〔A地域及びB地域のいずれにも該当しない小売販売地域〕に区分される。同第2章第1の3)し、〈2〉酒類小売業免許のうちの「一般酒類小売業免許」(販売場において、原則としてすべての酒類の酒類を販売することができるもの)については、毎年度(九月一日から翌年の八月三一日までをいう。)の開始直前の三月三一日現在の小売販売地域ごとの人口を基準人口(「A地域」一五〇〇人、「B地域」一〇〇〇万、「C地域」七五〇人〔同第2章第3の1(3)イ(イ)〕)で除し、免許付与の許容数である「基準人口比率」を算出の上、これから、当該小売販売地域に関し当該年度開始直前の八月三一日現在で既に付与している一般酒類小売業免許場(以下「既存酒類小売販売場」という。)数を控除して得られた数値等に基づいて免許枠を確定する(第2章第3の1(3)イ(ハ)ないし(ホ))。

2  本件申請の販売場(以下「本件販売場」という。)がある岡山市平井四丁目六六八番七号は、A地域に所在し、被告が本件処分を行った平成四年度開始直前の平成四年三月三一日現在における小売販売地域(岡山市のうち岡山東税務署管轄地域)の人口は二三万七五五六人であるから、これを基準人口一五〇〇人で除すると、基準人口比率は一五八場となるのに対し、同年八月三一日現在で右小売販売地域内に存在する既存酒類小売販売場は二二四場であって、免許枠を大幅に越える。

したがって、原告に対し新たな免許を付与した場合は、販売地域における酒類の均衡を破り、酒税の確保に支障を来すおそれがなるとした本件処分は適法である。

三  抗弁に対する認否

1  抗弁1の法規及び通達の規定が存在することは認める。

2  同2は争う。

四  再抗弁

1  本件申請に対する新要領の適用は恣意的であり、被告に許される裁量の範囲を逸脱している。

新要領は、新要領施行前の免許付与基準である昭和三八年一月一四日付け間酒二-二国税庁長官通達「酒類の販売業免許等の取扱いについて」の別冊「酒類販売業免許等取扱要領」(以下「旧要領」という。)が「小売販売地域」を小学校区単位としていたのを税務署管轄区域に拡大した。しかし、基準となる地区を広域化すれば販売場は偏在集中し、販売場の過疎地を生む可能性も生じる。酒販店を適正に配置するには、小売販売地域の単位を小さくするのが合理的である。右広域化にはまったく合理性がない。

現に、岡山市の人口は、農村地域に比して市街地とその周辺に著しく偏在し、両者を一つの小売販売地域とすることは甚だ不合理である。すなわち、岡山東税務署管轄区域は人口二三万七五五六人の広大な範囲であるが、本件販売場のある平井小学校区(以下「平井学区」という。)には販売場がほとんどない。

旧要領のもとでは、小学校区を一単位とする「小売販売地域」は、同地域内の総世帯数を三〇〇世帯で除した数まで免許された。これを平井学区に適用すれば、世帯数、販売量数のいずれの基準によっても一三の販売場が認められ、右区域内の既存の酒類小売店は休業場一を除くと四店舗であるから、八店舗分の免許枠の余剰が生じる。新要領のもとにおいて旧要領よりも免許枠が厳しくなるような運用は、取扱要領の規制緩和の方向での改正の趣旨に反し許されない。

ちなみに、新要領によれば、市町村合併等により市区町村内において人口の偏在が生じている場合は、市区町村の一部を独立した小売販売地域として設定することができ(新要領第2章第1の2)、年度内免許枠の特例として、新開地、山間へき地、団地、高層建築物集積地区等が定められている(同第2章第3の3ロ)。右措置が設けられている趣旨である酒販小売店の偏在を避ける方向で、免許枠にとらわれず弾力的運用をするべきである。

2  法一〇条一一号は、憲法二二条一項(職業選択、営業の自由)に違反し、無効である。

営業の免許制度が合憲であるためには、規制の目的自体が公共の利益に適合し、目的と規制手段との間に合理的関連性が存在し、規制によって失われる利益と得られる利益とが均衡する必要がある。

仮に、酒販免許制度の目的が酒税収入の安定確保を図ることであるとしても、右目的は正当でない。すなわち、憲法二二条一項に保障する職業選択の自由は、公共の福祉による制約は受けるとしても、右の規制は社会生活における個人の生命身体財産の安全を保障し、経済活動がもたらす弊害を除去ないし緩和するための警察的諸規則及び憲法が全体として企図している福祉国家的理想のもとに、積極的に社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図して一定の規制措置を講ずる目的のためにのみ許されるのであって、「租税政策」その他種々の「政策」の名のもと恣意的、便宜的な制約は許されない。

職業選択の自由、営業の自由は、自由な経済活動が拘束され、租税徴収の目的のために営業が許可制のもとにおかれてきた封建制への抵抗を通して確立されてきたものであり、租税徴収の確保を目的としての許可制は、憲法が基礎とする自由経済と福祉国家の原理と相容れない。また、租税収入確保を目的とした制約が許容されるならば、国民の経済活動のほとんどすべての領域が徴税対象とされている現代社会においては、国民が従事する大半の職業を国家の許可制のもとにおくことも憲法上許容されることとなり、国民の職業選択の自由は国家の「租税対策」次第でどのようにも左右され、その結果、憲法二二条一項の保障はまったく空文化する。

免許制度は、規制の手段態様において著しく合理性を欠き、目的達成のために必要かつ合理的な手段とは認められない。すなわち、法六条によれば酒税を納付すべき義務者は酒類の製造者又は酒類を保税地域から引き取る者であって酒類の販売業者ではない。したがって、酒税徴収確保の目的が職業選択の自由を規制する目的として正当なものであるとしても、酒類製造業者又は酒類引取者を免許制度のもとにおくことで足り、酒税納付義務者でない酒類販売業者を免許制のもとにおかねばならない合理性はない。酒類製造業者も一個の企業人であるから自己の製造した酒類を販売する相手方の資力、信用については一般の企業が払うのと同様な注意を当然に払って取引をするのであり、そのような注意能力をもとより有し、それ以上に酒類製造業者を政府が後見的に保護しなければ酒税収入の安定を害するという事情はない。

酒税法は、酒税徴収を確保するために、酒類製造者に対して、申告書提出義務(三〇条の二)、各種事項の帳簿記載義務(四六条)、申告義務(四七条)、質問検査、検定受認義務(四九、五三条)、承認を受ける義務(五〇条)、届出義務(五〇条の二)、酒税証紙貼付義務を課し(五一条)、その懈怠には刑事罰をも規定(第九章)することによって課税対象及び税額を遺漏なく把握し、国税庁長官、国税局長又は税務署長は、酒税保全のため必要があると認めるときは、酒類製造者に対して金額及び期間を指定して酒税につき担保の提供を命ずることができ、提供すべき担保がないときには、担保の提供に代えて酒税の担保として酒類の保存をも命ずることができる(三一条一項)。しかも、酒税は、酒類製造業者がその製造場から酒類を移出した月の翌月末日までに納付しなければならず(三〇条の四第一項、三〇条の一第一項)、酒類製造業者の資産、信用等の変化による影響を受けないように配慮されている。これらの酒税確保等のための諸方策に加えて酒販業者まで免許制度の規制のもとにおくことは無用の処置であり、営業活動の開始すら許さないとすることは、酒類販売業を希望する者に対して重大な損害を与え、目的達成のために必要な合理性を著しく欠くものである。

五  再抗弁に対する認否

争う。

(一)  酒販業をしようとする者は税務署長の免許を受けなければならない(法九条一項)とする目的の一つは、国の主要財源である酒税収入を確保する上で重要な役割を果たす酒販業者の濫立を防止し、適正な需給の均衡のもとに酒類代金を確実に回収させ、酒税収入を安定させることにある。

(二)  法一〇条一一号は、一定地域内における酒類に対する需要量等が地域に存在する販売場の数にかかわりなくほぼ一定していると考えられることに照らし、当該地域における酒販業者の濫立による過当競争がその経営を不安定にさせるとともに、関係の酒類製造者の経営の不安定化を招来し、ひいては酒税の確保に困難を来す事態が生じるのを防止して、酒類の適切な需給関係を維持し、もって酒税収入の安定的な確保を図ろうとしたものであり、酒類需給の均衡維持の目的達成のため必要かつ合理的な制限を規定したものである。

(三)  法一〇条一一号の具体的運用は、酒販業の実態などに関する正確な資料に基づく税務署長の専門技術的な裁量判断に委ねられるべきである。

税務署長による右裁量権の行使が公平かつ適正に実現されるために必要な、税務署長の恣意を排除し、事務処理を統一的、合理的にするための具体的な指針として、基本通達及び新要領があり、その内容は、酒販免許制度の目的に照らし合理的なものである。

第三証拠

本件記録中の証拠目録のとおりである。

理由

一  請求原因について

争いがない。

二  抗弁について

1  抗弁1について

抗弁1に記載する法規及び通達が存在することについては争いがない。

2  抗弁2について

乙三号証及び弁論の全趣旨によって認められる。

三  再抗弁について

1  再抗弁1について

(一)  甲二六、二七(枝番を含む。以下同。)、乙一、二、八ないし一〇及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件申請にかかる「一般酒類小売業免許」の付与基準について新要領が定める基準(抗弁1(三)。争いがない。)は、平成元年六月一〇日から実施され、同時に旧要領は廃止された(以下「本件改正」という。)。

(2) 本件改正は、昭和六三年一二月一日に行われた臨時行政改革推進審議会の「公的規制の緩和等に関する答申」中の酒類小売販売業に関する提言及び同年一二月一三日に閣議決定された「規制緩和推進要綱」の各内容の具体化のために行われ、その改正指針は、酒類販売業免許制度は、酒税の保全及びアルコール飲料としての商品特性を持つ酒類の社会的管理上重要な役割を担い、主要諸外国においても例外なく採用されている制度(専売制度を含む。)であることを踏まえ、経済制度の国際的調和に留意し、旧要領制定以降の経済社会の変化に即応し、酒類販売業免許の必要な場合の免許、制度運営の透明性および公平性を一層確保できるよう諸規定を改めることにあり、社会経済情勢の変化にあわせて旧要領をより合理化することを図ったものであった。

本件改正の具体的内容は、〈1〉小売販売地域の単位の見直しについては、旧要領では「一税務署の管轄区域、最小行政区画または学校教育法施行令第五条第二項の規定により、市(特別区を含む。)町村の教育委員会が指定している小学校の通学区域等を一単位とし、申請販売場の所轄税務署長が決定した地域」(旧要領第1の1(8))であったが、新要領では前示のとおり、「原則として、各税務署管轄区域内の各市区町村を一単位」とし、〈2〉「酒類の需給調整上の要件」のただし書の削除については、旧要領では、形式基準として、「申請販売場の小売販売地域内に所在する全酒類小売業者の販売場(休業場を除く。以下「既存小売販売場」という。)から、その地域の小売基準数量の一〇倍以上の数量の販売実績を有する大規模な既存小売販売場を除外した残りの全酒類小売販売場の最近一カ年間における総販売数量に酒類消費量の増減率を乗じて算出される数量を、その販売場の数に申請販売場を加えた数で除して得た数量が小売基準数量以下であること」(以下「小売数量基準」という。)、「申請時に最も近い時における申請販売場の小売販売地域内の総世帯数を、既存小売販売場数に申請販売場数を加えた数で除して得た数が、基準世帯数(A地域三〇〇世帯、B地域二〇〇世帯、C地域一五〇世帯、D地域一〇〇世帯)以上であること」(以下「世帯数量基準」という。)の二つの基準を適用し、更に、「ただし、これらの要件に合致する場合であっても、既存の酒類販売業者の経営実態又は酒類の取引状況等からみて、新たに免許を与えるときは、酒類の需給の均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障をきたすおそれがあると認められる場合は免許を与えないこと」とのただし書規定による実質認定の二段階方式によって認定した(旧要領第3の1(1)ハ)のに対し、新要領では、前示のとおりただし書規定を削除し、〈3〉人口基準の採用については、小売販売地域は、「A地域」(東京都の特別区、人口三〇万人以上の市、若しくはこれらに準ずる市町村)、「B地域」(A地域以外の市、若しくはこれに準ずる町村)及び「C地域」(A地域及びB地域のいずれにも該当しない小売販売地域)に区分〔新要領第2章第1の3〕し、毎年度(九月一日から翌年の八月三一日までをいう。)の開始直前の二月三一日現在の小売販売地域ごとの人口を基準人口(「A地域」一五〇〇人、「B地域」一〇〇〇人、「C地域」七五〇人〔同第2章第3の1(3)イ(イ)〕)で除して、免許付与の許容数である「基準人口比率」を算出の上、これから、当該小売販売地域に関し当該年度開始直前の八月三一日現在で既に付与している一般酒類小売業免許場(以下「既存酒類小売販売場」という。)数を控除して得られた数値等に基づいて免許枠を確定する(第2章第3の1(3)イ(ハ)ないし(ホ))人口基準を採用した。

(3) 右〈1〉~〈3〉の三点の改正には、次のとおり合理的理由がある。

ア 小売販売地域の見直しについて

小売販売地域は、酒類の地域的需給調整を判断するための地域単位として設けられた。これを小学校区に限定していた旧要領制定当時に比べるとモータリゼーションの進展をはじめとする現在の交通手段の発達は著しい。都市部を中心として、消費者の生活圏が大きく広域化している状況下において、小売販売地域を小学校区に限定する根拠に乏しく、かえって小売販売地域を細分化することによって、本来生じるはずの酒販免許枠を減じさせる結果を招来することなどを考慮すると、最小行政単位である市区町村を基準として小売販売地域を設定することは、現代の社会経済生活の実態により適合する。

イ 旧要領所定のただし書規定の廃止について

制度運営の透明性および公平性を一層確保する観点から、「酒類の需給調整上の要件」の認定をできる限り形式的・斉一的に行おうとするものである。

ウ 人口基準の採用について

新要領が人口基準を採用したのは、一定地域における酒類の消費量は、当該地域に居住する人口と最も密接な因果律をもっているものと認められるから、旧要領所定の「小売販売数量」等よりも、人口基準を採用する方が、近時の社会経済情勢下における酒類の需給調整上の要件の判断基準として適切であり、また、一定地域に居住する人口は逐年公表されて客観的に明らかであるから、税務署長の判断の透明性が確保されるとの判断に基づき、基準人口は、本件改正の直近の昭和六二年度における免許付与の実情についての全国的な実態調査の結果、並びに同年度の人口一人当たりの酒類の消費金額及びA、B、C各地域の小売酒販店の平均酒類売上金額に照らし、原状の酒類売上金額を維持するために必要な人口を推算した結果に基づいて決められたものであるから、合理性を有するといえるものである。

(4) なお、原告は、新要領が、「市町村合併等により市区町村内において人口の偏在が生じている場合に市区町村の一部を独立した小売販売地域として設定することができる。」旨規定し(第2章第1の2)、また、年度内免許枠の特例として、新開地、山間へき地、団地、高層建築物集積地区等が定められている(第2章第3(3)ロ)ことを挙げて、本件処分が裁量を逸脱している旨主張するが、乙七号証によれば、平成二年度における平井地区の人口密度は二八二〇人で、東税務署管轄区域全体の人口密度二四五〇人と大差ないのであるから、人口の偏在が生じているとはいえず、また、年度内免許枠の特例地として取り扱うべき特段の事情も認められないから、右主張は採用しない。

(二)  以上のとおり、基本通達に基づく新要領は、酒販免許制度が、その運用において既存業者の既存利益者の保護に傾いて新規参入を不当に抑制することのないよう、税務署長の恣意を排除し、事務処理の統一性及び合理性を図り、税務署長の裁量権行使の公平性及び適正さを担保するための具体的な指針として設けられたものと認められ、新要領の基準が合理的でないとはいえない。

2  再抗弁2について

(一)  法九条一項及び一〇条一一号の酒販免許制度は、憲法二二条一項が定める職業選択の自由を規制するものであるが、法九条一項が憲法二二条一項に違反するとはいえない(最高裁判所昭和六三年(行ツ)第五六号平成四年一二月一五日第三小法廷判決民集四六巻九号二八二九頁)。

(二)  職業選択の自由に対する立法的規制が憲法二二条一項に違反するか否かは、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を比較検討して判断しなければならない。また、規制の目的が、租税の適切かつ確実な賦課徴収にある場合は、規制の必要性と合理性についての立法府の判断は、国家の財政を支える租税立法の政策的、専門技術的正確上、政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理なものでない限りこれを尊重するべきである。

そして、酒類免許制度の目的は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保することにあり、法一〇条一一号が「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」には、税務署長は免許を与えないことができるとする趣旨は、一定地域内における酒類に対する需要量等が、地域に存在する販売場の数にかかわりなくほぼ一定しているものととらえ、当該地域における酒販業者及び関係の酒造業者の経営が、濫立による過当競争によって不安定になり、酒税の確保が困難になるのを防止し、酒類の需給関係を適切に維持して酒税収入の安定的な確保を図ろうとするものであるから、法一〇条一一号の規定を設けたことについて、立法府の判断が、政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとはいい難く、法一〇条一一号が憲法二二条一項に違反するとはいえない。

(三)  法一〇条一一号の具体的な運用については、酒販業の実態などに関する正確な資料を基礎とする税務署長の専門技術的な裁量判断に委ねるほかなく、新要領による右運用が合理的でないとはいえないことは前示のとおりである(原告が主張するように、旧要領の形式基準のもとでは免許枠の余剰が存在する可能性があったとしても、本件改正が全体として不合理なものといえないことは前示のとおりであるから、そのことによって右結論が左右されることはない。)。

3  以上のとおりであるから、本件処分当時、原告に対して新たな免許を付与した場合は、販売地域における酒類の均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障を来すおそれがなったものとして行われた本件処分は適法である。

四  結論

以上の次第で、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田亮一 裁判官 吉波佳希 裁判官 濱本章子)

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